似た名前が2つあって、離れると混ざる。在職定時改定と退職時改定。
混ざるのには理由があります。この2つは別々の条文ではなく、厚生年金保険法43条という同じ条文の中に、2項と3項として並んで置かれているからです。43条は老齢厚生年金の「年金額」の条文。つまりどちらも、働いて払った分を年金額にいつ反映するかという、同じ問いへの答えです。違うのはタイミングだけ。「働いている途中」で見るか、「辞めたあと」に見るか。
2項=働いている途中。9月1日に見る
条文はこう書いています。「受給権者が毎年九月一日(以下この項において「基準日」という。)において被保険者である場合……の老齢厚生年金の額は、基準日の属する月前の被保険者であつた期間をその計算の基礎とするものとし、基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する」。
9月1日に見て、翌月=10月から改定する。この「毎年9月1日」に基準日という名前がついているのが2項です。
実務の側の記載も合わせておきます。年金機構は「厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている65歳以上70歳未満の方が、基準日の9月1日において被保険者であるときは、翌月の10月分の年金額から見直されます。これを『在職定時改定』といいます」と書いています。足される期間も明記されていて、「年金額に反映されていない前年9月から当年8月までの厚生年金に加入していた期間を追加して、年金額の再計算が行われます」。
2項には、条文が引いた線が2本ある
ここが試験で効きます。2項には、素通りしやすいカッコとただし書きがあります。
ひとつ目。「基準日において被保険者である場合(基準日に被保険者の資格を取得した場合を除く。)」。9月1日ちょうどに資格を取得した人は、9月1日に被保険者であっても、この改定から外れます。
ふたつ目は、逆に救うほうのただし書きです。「ただし、基準日が被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの間に到来し、かつ、当該被保険者の資格を喪失した日から再び被保険者の資格を取得した日までの期間が一月以内である場合は、基準日の属する月前の被保険者であつた期間を……基準日の属する月の翌月から、年金の額を改定する」。
抽象的ですが、年金機構が具体例を出しています。「9月1日前に被保険者の資格を喪失して、そこから9月1日をまたぎ、1月が経過する前に被保険者の資格を取得したときは、基準日の9月1日において被保険者ではありませんが、在職定時改定として年金額の再計算が行われます。(例:8月25日資格喪失、9月3日資格取得)」。
条文のただし書きと、この例が同じものを指しています。9月1日にたまたま空いていた1週間があっても、1か月以内に戻ってくるなら在職定時改定として扱う、ということです。
3項=辞めたあと。退職の翌月から
同じ43条の3項が、辞めたときの話です。
条文は3つのことを、それぞれ別の言葉で書いています。
要件は「被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して一月を経過したとき」。計算の基礎は「その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者であつた期間」。改定の時期は「資格を喪失した日(第十四条第二号から第四号までのいずれかに該当するに至つた日にあつては、その日)から起算して一月を経過した日の属する月から」。
年金機構の側はこう書いています。「厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の方が、退職して1カ月を経過したときは、退職した翌月分の年金額から見直されます。これを『退職改定』といいます」。
ここは読み分けが要ります。「1か月」は要件のほうです。増えるのは「1か月たった月から」ではなく、退職した翌月分から。1か月というのは、待つ期間であって、改定の起点そのものではありません。
そして「被保険者となることなくして」が効くのがここ。年金機構も「※退職して1カ月以内に再就職し、厚生年金に加入したとき(転職など)は、年金額の再計算は行われません。」と明記しています。
70歳という上限は、どこから来るか
在職定時改定も退職時改定も、年金機構の記載では対象が「70歳未満の方」で切れています。この線の出どころは、被保険者の定義です。
9条は「適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする」。14条は5号に「七十歳に達したとき」を置き、この号に当たったときは翌日ではなく「その日」に資格を喪失するとしています。
70歳到達そのものにも改定があります。「厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の方が、70歳に到達したときは、70歳到達した翌月分の年金額から見直されます」。
2つを、いっぺんに
| 在職定時改定(43条2項) | 退職時改定(43条3項) | |
|---|---|---|
| きっかけ | 毎年9月1日(基準日)に被保険者であること | 資格を喪失し、被保険者とならずに1か月を経過したこと |
| 対象(年金機構の記載) | 65歳以上70歳未満の方 | 70歳未満の方 |
| 計算の基礎(条文の言葉) | 基準日の属する月前の被保険者であつた期間 | 資格を喪失した月前における被保険者であつた期間 |
| 増えるのは | 10月分から | 退職した翌月分から |
| 追加される期間 | 前年9月から当年8月まで | 退職までの加入期間 |
| 起きない場合 | 基準日に資格を取得した場合 | 1か月以内に再就職し厚生年金に加入したとき |
名前が似ている「在職老齢年金」は、別の話
もうひとつ、名前で混ざるものがあります。在職老齢年金です。
この記事で見てきたのは「働いて払った分をいつ年金額に反映するか」の話。在職老齢年金は「働いていると年金が止まることがある」という、別の仕組みです。
ひとことで持って帰るなら
在職定時改定と退職時改定は、厚年法43条の2項と3項、同じ条文の中の隣どうしです。目的はどちらも同じで、働いて払った分を年金額に反映すること。違いはいつ見るかだけ——9月1日に見て10月分からか、辞めて1か月を経過して退職の翌月分からか。
そして条文が数えるのは、どちらも「〜の属する月前」「〜した月前」という同じ形です。この形が見えると、2つはもう混ざりません。