「白書・統計は範囲が広すぎて、どこから手をつけていいか分からない」——よく聞く声です。でも、一次ソースを実際に開いて確かめてみると、恐いのは範囲ではありませんでした。
ひとつ、具体の話から入ります。
「年次有給休暇の取得率が最も高い産業はどこか」。令和6年調査の答えは「鉱業,採石業,砂利採取業」(71.5%)でした。ところが令和7年調査では、「電気・ガス・熱供給・水道業」(75.2%)が最も高くなっています。
数字が少し動いた、という話ではありません。答えそのものが入れ替わった。去年のテキストのまま覚えていた人は、そのまま失点します。
範囲は、最初のページに書いてある
まず「範囲が無限」のほうを片づけます。
政府の統計調査には、何を調べるものなのかが最初のページに書いてあります。就労条件総合調査ならこうです。「この調査は、主要産業における企業の労働時間制度、賃金制度等について総合的に調査し、我が国の民間企業における就労条件の現状を明らかにすることを目的として実施している」。
労働時間制度と、賃金制度。それがこの調査の輪郭です。無限に広がっているのではなく、名前のついた調査に、書かれた範囲がある。
本当の敵は、そこではありません。
同じ調査の、去年と今年を並べる
就労条件総合調査の「概況」は、今年の数字の隣に、前年の数字を括弧で併記しています。つまり、動きが一次ソース自身に書いてある。並べると、こうなります。
| 指標 | 令和6年調査 | 令和7年調査 |
|---|---|---|
| 年次有給休暇の取得率 | 65.3% | 66.9% |
| 年次有給休暇の取得日数(労働者1人平均) | 11.0日 | 12.1日 |
| 年次有給休暇の付与日数(労働者1人平均・繰越除く) | 16.9日 | 18.1日 |
| 完全週休2日制を採用している企業割合 | 56.7% | 65.5% |
| 何らかの週休2日制を採用している企業割合 | 90.9% | 92.6% |
| 年間休日総数(1企業平均) | 112.1日 | 112.4日 |
| 1日の所定労働時間(1企業平均) | 7時間47分 | 7時間49分 |
| 勤務間インターバル制度「導入している」 | 5.7% | 6.9% |
8つ並べて、8つとも動いています。しかもこの表の左の列(令和6年調査の値)は、私が別のPDFから拾ってきたものではありません。令和7年調査の概況が、括弧の中にそのまま書いている数字です。
「令和7年調査」は、令和7年の数字ではない
ここが、統計でいちばん足をすくわれるところです。
令和7年調査の概況には、こう書いてあります。「令和7(2025)年1月1日現在の状況について調査を行った。ただし、年間については、令和6(2024)年(又は令和5(2023)会計年度)1 年間の状況について調査を行った」。
ひとつの調査の中に、2つの時点が同居しているのです。
| いつの状態を測ったか | |
|---|---|
| 制度もの(週休制・所定労働時間・勤務間インターバル制度など) | 令和7年1月1日現在 |
| 年間もの(年次有給休暇・年間休日総数など) | 令和6年の1年間 |
だから「令和7年調査の有給取得率66.9%」は、令和6年に取った有給休暇の実績です。実際、概況の本文も「令和6(2024)年 1 年間に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数を除く。)をみると」という書き出しになっています。年間休日総数のほうも、「令和7(2025)年調査における令和6(2024)年1年間の年間休日総数」と書かれています。
調査の名前についている年と、数字の中身の年がズレる。ここを踏まえずに数字だけ覚えると、「いつの数字ですか」と聞かれた瞬間に答えられなくなります。
一次ソースは、動きを自分で書いている
さっきの引用を、もう一度見てください。取得率は「66.9%(同 65.3%)」。完全週休2日制は「65.5%(同 56.7%)」。勤務間インターバル制度は「6.9%(令和6(2024)年調査 5.7%)」。
括弧の中が、前年の値です。概況は、去年からどう動いたかを自分で書いている。まとめサイトを探し回らなくても、概況のPDFを1本開けば、「今年の数字」と「去年の数字」が同時に手に入ります。
そして——自分が覚えている数字が括弧の中に入っていたら、それは去年の数字だ、というサインです。
ひとことで持って帰るなら
統計は、範囲の広さでは落ちません。去年の数字のまま覚えているから落ちます。
- 「取得率が最も高い産業」は、鉱業,採石業,砂利採取業から電気・ガス・熱供給・水道業へ入れ替わった。数字だけでなく答えが変わる
- 概況は前年値を括弧で併記している。去年と今年は、1本のPDFで見比べられる
- 「令和7年調査」でも、年間の実績は令和6年のもの。調査の年と、中身の年は違う
数字は、どの調査の・いつの時点のものかとセットで。そこまで込みで覚えて、はじめて1点になります。