「特老厚は繰下げできない」は正しい。でも厚年の繰下げは、66歳ではなく受給権を取得した日から数えます

2026.04.01 法令基準最終検証 2026.07.1715繰下げ受給特別支給の老齢厚生年金老齢厚生年金老齢基礎年金

広告はありません。事実には出典がついていて、その場で原文を確かめられます。

学習中の方が、こんな気づきを投稿されていました。
「特別支給の老齢厚生年金は繰り下げできない——と思っていたけど、それは65歳までの話。そのあとは普通の老齢厚生年金を繰り下げできるんですね…」
これ、正解です。境目は65歳。名前は似ていますが、別の年金です。
ただ、ここで止めてしまうと、もったいない。繰下げの条文は、老齢基礎年金と老齢厚生年金で「数え方」そのものを変えています。片方は年齢で数え、もう片方は受給権を取得した日から数える。「66歳から75歳まで」とまとめて覚えると、厚生年金のほうは条文と合わなくなります。

境目が65歳なのは、条文が65歳と書いているから

まず、65歳で何が始まるのか。これは両方の条文に、そのまま書いてあります。
老齢厚生年金は「被保険者期間を有する者が、次の各号のいずれにも該当するに至つたときに、その者に支給する。一六十五歳以上であること。二保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が十年以上であること」
老齢基礎年金も「保険料納付済期間又は保険料免除期間…を有する者が六十五歳に達したときに、その者に支給する」
どちらも65歳。ここから本来の2階建てが始まります。
そして、この42条をよく見てください。老齢厚生年金は「次の各号のいずれにも該当するに至つたとき」に支給される。65歳以上と10年以上、両方そろった時点が受給権を取得した日です。だから、65歳より後に受給権を取得する人もいます。この一点が、あとで効いてきます。

「特老厚は繰下げできない」は、年金機構が言い切っている

特別支給の老齢厚生年金(特老厚)については、年金機構が正面から書いています。「特別支給の老齢厚生年金には『繰下げ制度』はありません。受給権発生日以降に速やかに請求してください。。繰下げ受給のページにも「また、特別支給の老齢厚生年金は『繰下げ制度』はありません。」とあります
請求のタイミングも書かれています。「受給権発生日は受給開始年齢に到達した日(誕生日の前日)となります。そのため、請求書は受給開始年齢になってから提出をお願いします。

放置しても増えない。しかも5年で消える

繰下げ制度が無い、ということは「待っても1円も増えない」ということです。それどころか、待つと減ります
厚生年金保険法92条1項——「保険給付を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から五年を経過したとき…は、時効によつて、消滅する」
年金機構も、繰下げのお知らせの中で同じ注意をしています。「また、手続きが遅れた場合、請求した時点から5年以上前の年金は、時効により受け取ることができなくなります。特別支給の老齢厚生年金は繰下げ制度はありませんので、お早めに手続きをお願いします。

繰下げの条文は、基礎と厚生で「数え方」が違う

ここからが本題です。65歳を過ぎたら繰下げの世界に入りますが、その入口の条文が、基礎と厚生で別の物差しを使っています。
老齢基礎年金は「六十六歳に達する前に当該老齢基礎年金を請求していなかつたもの」が申し出られる年齢です。
老齢厚生年金は「その受給権を取得した日から起算して一年を経過した日(以下この条において「一年を経過した日」という。)に当該老齢厚生年金を請求していなかつたもの」が申し出られる受給権を取得した日からの期間です。
この違いは、条文の隅々まで貫いています。
老齢基礎年金(国年法28条)老齢厚生年金(厚年法44条の3)
申出できるのは66歳に達する前に請求していなかった者受給権を取得した日から1年を経過した日前に請求していなかった者
これ以後は申出があったものとみなす(上限)75歳に達した日受給権を取得した日から起算して10年を経過した日
「5年前にさかのぼって申出があったものとみなす」が働く入口70歳に達した日後に請求したとき受給権を取得した日から起算して5年を経過した日後に請求したとき
その5年前みなしの対象外80歳に達した日以後受給権を取得した日から起算して15年を経過した日以後
物差し年齢(歳)受給権を取得した日からの期間(年)

「別々に繰り下げできる」の正体は、除外リストです

年金機構は「なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げすることができます。」と書いています。よく紹介される話ですが、なぜそうなるのかは条文を見ると分かります。
どちらの繰下げにも、ただし書きがあります。「他の年金たる給付」の受給権者だったときは申し出られない、という関門です。問題は、その「他の年金たる給付」が何を指すか——カッコの中の除外リストです。
老齢基礎年金の側(国年法28条1項)はこう書きます。「他の年金たる給付(他の年金給付(付加年金を除く。)又は厚生年金保険法による年金たる保険給付(老齢を支給事由とするものを除く。)をいう。…)」。厚生年金の老齢の給付は、除外リストに入っている。つまり関門にならない。
老齢厚生年金の側(厚年法44条の3第1項)も対になっています。「他の年金たる給付(他の年金たる保険給付又は国民年金法による年金たる給付(老齢基礎年金及び付加年金並びに障害基礎年金を除く。)をいう。…)」。老齢基礎年金は、除外リストに入っている。
お互いが、相手の老齢年金を除外リストに書いている。だから片方を受け取りながら、もう片方だけを繰り下げられる。「別々に繰り下げできる」は運用の親切ではなく、条文が両側から作った仕組みです。

0.7%も84%も、条文には書いていない

繰下げといえば「1か月0.7%・最大84%」。ところが、この数字を条文に探しても出てきません。
老齢厚生年金の繰下げ額を決める厚年44条の3第4項は、こう書いて終わります。「…第四十三条第一項の規定の例により計算した額及び第四十六条第一項の規定の例により計算したその支給を停止するものとされた額を勘案して政令で定める額を加算した額とする」。老齢基礎年金の側(国年28条4項)も同じで、「同条に定める額に政令で定める額を加算した額とする」
法律が決めているのは「誰が・いつからいつまで・何を基礎に」であって、率は政令。だから率のほうは、年金機構が公表している数字を見ます
上限が違う人もいます。「昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなりますので、増額率は最大で42%となります。
区分上限増額率の上限
上記以外75歳84%
昭和27年4月1日以前生まれ/平成29年3月31日以前に受給権が発生70歳(権利が発生してから5年後)42%

加給年金は、待っても増えず、待っている間はもらえない

繰下げの損得で最後に効くのが、加給年金額です。年金機構の記載がはっきりしています。「加給年金額や振替加算額は増額の対象になりません。また、繰下げ待機期間(年金を受け取っていない期間)中は、加給年金額や振替加算を受け取ることができません。
増えない、そして待っている間は出ない。二重に効きます。
その加給年金額そのものの条件も、条文が絞っています。厚年44条1項は「老齢厚生年金(その年金額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が二百四十以上であるものに限る。)」の額は、受給権者がその権利を取得した当時「その者によつて生計を維持していたその者の六十五歳未満の配偶者又は子(十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある子及び二十歳未満で…障害等級…の一級若しくは二級に該当する障害の状態にある子に限る。)があるときは…加給年金額を加算した額とする」と書いています
240月以上、そして配偶者は65歳未満。ここに「繰下げ待機中は受け取れない」が重なります。

ひとことで持って帰るなら

「特老厚は繰下げできない」で止まらず、65歳の向こう側で条文が何を数えているかまで見る。ここまで来ると、この論点はもう崩れません。

出典

この記事は 2026.04.01 時点の法令で書いています。法令・通達・判決文は著作権法13条により自由に利用できます。内容は必ず原文もご確認ください。 この記事の note 版は こちら(note版は公開時点のまま更新されません。最新はこのページです)。