傷病手当金の「通算1年6か月」を覚えた人ほど、退職後で落とします

2026.04.01 法令基準最終検証 2026.07.1714傷病手当金資格喪失後の継続給付通算1年6月任意継続被保険者

広告はありません。事実には出典がついていて、その場で原文を確かめられます。

令和4年1月、傷病手当金は「通算」になりました。途中で復職して支給が止まっても、残りをあとから使える。厚生労働省の説明はこうです。「支給期間中に途中で就労するなど、傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6か月を超えても、繰り越して支給可能になります」
条文も、そう書かれています。「傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする」
ここまでは、たいていの受験生が知っています。問題は、この知識のまま「退職後」の肢を読むと、素直に○を付けてしまうことです。

退職後は、「あとから再開」が効かない

退職後の傷病手当金には、正式な呼び名があります。健康保険法104条の見出しが「傷病手当金又は出産手当金の継続給付。以下、この呼び方を使います。
その継続給付について、昭和26年の通達が言い切っています。
資格喪失後継続して、傷病手当金の支給を受けている者については、保険診療を受けていても一旦稼働して傷病手当金が不支給となつた場合には完全治癒であると否とを問はず、その後更に労務不能となつても傷病手当金の支給は復活されない
そして令和4年の改正のときにも、厚生労働省は同じ線を引き直しました。「ただし、一時的に労務可能となった場合には、治癒しているか否かを問わず、同一の疾病等により再び労務不能となっても傷病手当金の支給は行わない
70年以上前の通達と、改正時のQ&Aが、同じことを言っている。「通算」になっても、ここは動かなかったわけです。

1枚で見る

在職中の被保険者退職後(資格喪失後の継続給付)
根拠99条1項104条
上限支給を始めた日から通算1年6月「被保険者として受けることができるはずであった期間」
途中で働いたら繰り越して支給可能再開されない
入口待期3日+1年以上の被保険者期間・資格喪失の際に支給を受けていること
任意継続被保険者(99条1項の対象から除かれる)任継期間中に発生した傷病では出ない/在職中からの継続給付は続く
老齢退職年金受給者になると不支給(差額あり)
右の列だけが、あちこち別ルールになっています。順に見ていきます。

1. 退職日に出勤すると、翌日から出ない

継続給付の条件は、104条が2つ書いています
2つめが曲者です。協会けんぽは、こう書いています。「なお、退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません」
引き継ぎのために最終日だけ顔を出した。それだけで、翌日以降が閉じます。
入口はもうひとつあります。待期です。99条1項は「労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から」支給する、と書いています。昭和32年の通達は、この待期と継続給付の関係をこう説明しています——「資格喪失の日前療養のため労務に服することのできない状態が三日間連続しているのみでは、いまだ、現に傷病手当金の支給を受けているわけではなく、また、支給を受ける状態にもないので資格喪失後の継続給付としての傷病手当金の支給を受けることはできない」
待期が終わっただけでは足りない。その先の「支給を受けている(受けられる)」状態まで届いていないと、入口で閉じます

2. 再開できない。でも「残り」が消えるわけではない

ここが、この論点のいちばん細い一本道です。
閉じるのは何か。通達とQ&Aの主語を見てください。復活しないと言われているのは「資格喪失後継続して、傷病手当金の支給を受けている者」について、Q&Aが扱っているのも「資格喪失後の傷病手当金の継続給付」についてです。どちらも、継続給付というルートの話をしています。
一方、99条1項が支給の対象にしているのは「被保険者(任意継続被保険者を除く。……)が療養のため労務に服することができないとき」です。そして上限は、傷病ごとに「その支給を始めた日から通算して一年六月間」
つまり閉じるのは受け皿のほうで、残りの支給期間そのものが消える、とはどの出典も言っていません。事務連絡も、過去の分を確かめる手続きの話をしています。「原則として、被保険者が過去に加入していた保険者に直接照会する必要がある。残りは、保険者をまたいで管理されている、ということです。
枠の食い方にも線があります。「報酬、障害年金又は出産手当金等との併給調整により、傷病手当金が不支給とされた期間については、傷病手当金の支給期間は減少しない」。ただし「……傷病手当金の一部が支給される場合には、支給期間は減少する

3. 任意継続に入っても出ない。でも継続給付は続く

ここは、別々の2つの話がいつも混ぜて出題されます。
まず、任意継続被保険者の資格では、傷病手当金は出ません。根拠は99条1項の括弧書きです。「被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)」。協会けんぽも「任意継続被保険者期間中に発生した病気・ケガによる傷病手当金及び出産手当金は支給されません」と書いています
この括弧書きは、読み飛ばせません。「第百二条第一項において同じ」と書いてある。102条1項は「被保険者が出産したときは……出産手当金を支給する」という条文です。つまり同じ除外が出産手当金にも効きます
一方で、在職中から続いている継続給付は、任意継続に入っても続きます。「傷病手当金と出産手当金については、在職中から継続して給付されている場合に限り、引き続きご申請いただけます

4. 老齢退職年金をもらえると、継続給付は止まる

協会けんぽは、継続給付についてこう書いています。「資格喪失後に傷病手当金の継続給付を受けている方が老齢厚生年金等の老齢退職年金の受給者になったときは、傷病手当金が支給されません。ただし、年金額の360分の1が傷病手当金の日額より低いときは、差額が支給されます」
主語に注目してください。ここで書かれているのは「資格喪失後に傷病手当金の継続給付を受けている方」です。この調整は、継続給付の話として説明されています。

5. 失業給付とは、そもそも要件が背反

傷病手当金と雇用保険の基本手当を、同じ日について両方受け取ることはできるのか。ここは、2つの条文を並べるだけで見えます。
働ける人に出すお金と、働けない人に出すお金。条文が置いている前提が、正反対を向いています。
明文で調整しているのは、実は基本手当ではないほうです。雇用保険の「傷病手当」には、こう書いてあります。第1項の認定を受けた受給資格者が、その認定を受けた日について「健康保険法(大正十一年法律第七十号)第九十九条の規定による傷病手当金……の支給を受けることができる場合には、傷病手当は、支給しない
差額を引くのではなく、まるごと不支給。そして引き下がるのは雇用保険の傷病手当のほうです

ひとことで持って帰るなら

「退職したら手厚くなる」制度ではありません。継続給付は、在職中の給付が切れずに続いている限りの延長です。だから、退職日に出勤すれば入口で閉じ、一度でも働ける状態になれば、その受け皿は戻らない
閉じるのはルートであって、残りの期間ではない。この一本の筋が通ると、5つの論点は全部その系にすぎない、と分かるはずです。

出典

この記事は 2026.04.01 時点の法令で書いています。法令・通達・判決文は著作権法13条により自由に利用できます。内容は必ず原文もご確認ください。