「障害年金はわからないことが多い。社労士ですら曖昧」——受験生の方からこういう声を聞きます。実際、ややこしい。
でも、分かりにくさの最初の分かれ道は、実はひとつだけです。「初診日に、どの年金に入っていたか」。ここで、もらえる年金の階が変わる。まずこの一段を押さえると、あとが一気に整理されます。
そもそも「2階建て」は、条文にそう書いてある
「年金は2階建て」とよく言われます。この呼び方の出どころは、国民年金法7条です。
条文はこう組み立てています。「次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする」——その2号が「厚生年金保険の被保険者(以下「第二号被保険者」という。)」。
読み方に注意してください。条文は「厚生年金保険の被保険者」を、国民年金の被保険者の一類型として数えているのです。会社員が国民年金の外にいるのではなく、条文の上では国民年金の被保険者(第2号)そのもの。ここから「1階(国民年金)+2階(厚生年金)」という呼び方が出てきます。
障害年金も、この構造そのままです。
- 初診日に国民年金だけ(1階だけ)→ 障害基礎年金だけ
- 初診日に厚生年金(=同時に国民年金の第2号被保険者)→ 障害厚生年金。しかも1級・2級なら、1階の障害基礎年金も一緒に出る(これが2階建て)
「初診日」で決まるのは、どの階か
「初診日」とは、その病気やケガで初めて医者にかかった日のこと。これは条文自身が定義しています。障害基礎年金は「初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(以下「初診日」という。)において次の各号のいずれかに該当した者」に支給する。障害厚生年金も同じ形で、初診日「において被保険者であつた者」が対象です。
どちらの条文も、基準にしているのは初診日の時点です。だから、その日にどの制度の被保険者だったかで、どの年金の対象になるかが決まる。同じ病気でも、初診日が「会社員時代(厚生年金)」か「自営・無職・専業主婦(夫)など(国民年金だけ)」かで、対象になる年金がまるっと変わります。
等級は「障害の重さ」。階で幅が違う
等級は障害の重さの区分で、1級がいちばん重い。そして、階が違うと等級の幅も、加算も変わります。
| 障害基礎年金(1階) | 障害厚生年金(2階) | |
|---|---|---|
| 対象になる人 | 初診日に「被保険者であること」(または被保険者だった60歳以上65歳未満で国内居住) | 初診日に厚生年金の被保険者=同時に国民年金の第2号被保険者 |
| 等級 | 1級・2級(条文が「一級及び二級とし」と限定) | 1級・2級・3級 |
| 一時金 | なし | 障害手当金 |
| 加算 | 子の加算 | 配偶者の加給年金額 |
| 額の決まり方 | 定額(1級は2級の1.25倍) | 報酬比例(1級は1.25倍) |
なぜ3級と障害手当金は、厚生年金だけなのか
ここは条文が言い切っています。国民年金法30条2項——「障害等級は、障害の程度に応じて重度のものから一級及び二級とし、各級の障害の状態は、政令で定める」。障害基礎年金に3級は、そもそも無い。年金額の表に1級と2級しか並ばないのも、これが理由です。
一方、障害厚生年金の側には3級があり、さらに一時金(一回きりの給付)の障害手当金の条文が厚生年金保険法にあります。
その3級は、過去の給料に応じた額(報酬比例)で計算されます。給料が低かった人は年金額も低くなるので、下がりすぎないように最低保障額がついています。
障害手当金の側にも、条文が引いた線があります。「当該初診日から起算して五年を経過する日までの間におけるその傷病の治つた日」において、政令で定める程度の障害の状態にある場合、という条件です。治った日が基準で、しかも初診日から5年以内という枠がある——障害厚生年金のほうは「初診日から1年6月を経過した日」が原則の基準ですから、起点は同じ初診日でも、そこから測る先が違うわけです。
加算は「1階に子・2階に配偶者」
- 子がいる → 子の加算(1階の障害基礎年金につく)。「2人まで」は1人につき243,800円、「3人目以降」は1人につき81,300円
- 配偶者がいる → 配偶者の加給年金額(2階の障害厚生年金につく)。243,800円
年金機構の表では、配偶者の加給年金額が式に入っているのは1級と2級だけで、3級は「(報酬比例の年金額)」だけです。だから、厚生年金で初診日を迎えた1級・2級の人(=2階建ての人)は、子の加算も配偶者加給も両方つくことがある。上の表の「左=1階に子、右=2階に配偶者」の位置で覚えると混乱しません。
ここは条件のほうも押さえておきたいところです。配偶者加給は「その方に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるとき」に加算されます。子のほうは「18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級または2級の状態にある子」です。年齢の線が、子と配偶者で違う——ここは出題しやすい形です。
令和8年度の金額
令和8年4月分からの額です。
| 昭和31年4月2日以後生まれ | |
|---|---|
| 障害基礎年金 1級 | 1,059,125円 + 子の加算額 |
| 障害基礎年金 2級 | 847,300円 + 子の加算額 |
| 障害厚生年金 3級の最低保障 | 635,500円 |
この数字が「どう作られているか」も、条文に書いてあります。障害基礎年金の額は「七十八万九百円に改定率を乗じて得た額」(50円未満は切り捨て、50円以上100円未満は100円に切り上げ)で、1級はその「百分の百二十五」。表の金額が毎年度動くのは、この改定率が動くからです。
障害厚生年金3級の最低保障も、条文が計算のしかたを決めています。「国民年金法第三十三条第一項に規定する障害基礎年金の額に四分の三を乗じて得た額」(端数の扱いは同じ)。額そのものは条文に書かれていない——条文にあるのは「78万900円」と「改定率」と「4分の3」という作り方だけで、実際の金額は年度ごとに年金機構が公表する数字を見る、という構造です。
金額そのものより、「どの階に、何がつくか」の位置関係を覚えるほうが試験では効きます。
ここで決まるのは「入口」まで
初診日で決まるのは、あくまでどの年金の対象になるか(=階)まで。同じ30条には、まだ2つの関門が書いてあります。
ひとつは障害の程度。「当該初診日から起算して一年六月を経過した日(…以下「障害認定日」という。)において、その傷病により次項に規定する障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとき」に支給する、という条件です。
もうひとつが保険料の納付要件で、条文のただし書きに入っています。「当該初診日の前日において、当該初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは、この限りでない」。つまり、納付済+免除が3分の2以上ないと出ない、を裏返しで書いています。
そこは受給のもう一つの関門で、別の回で整理します。
ひとことで持って帰るなら
障害年金は、初診日にどの年金に入っていたかで「階」が決まる。基礎は1級・2級、厚生は3級と障害手当金まである。この一段を先に押さえると、納付要件や認定日といった細かい要件も、急に整理して見えてきます。