労働保険の年度更新で、こんな疑問にぶつかる人がいます。
「すでに納めた概算保険料が、確定保険料より多い(=払いすぎ)。なのに、なぜ確定保険料の"認定決定"がされるの? もう払いすぎているんだから、認定なんてしようがなくない?」
この疑問は、徴収法19条を項ごとに開くと解けます。19条は「提出」と「納付」を、別の項に書き分けているからです。
前提:先に見込みで納めて、あとで精算する
労働保険の保険料は、先に見込みで納めて、あとで精算します。静岡労働局は令和8年度の年度更新について、こう案内しています——「労働保険の保険料は、年度当初に概算で申告・納付し翌年度の当初に確定申告のうえ精算していただくことになっており、事業主の皆様には、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付することとなっています。これを「年度更新」といい、本年度は6月1日から7月10日までの間にこの手続きを行っていただきます」。
「見込み」で納めるところは、条文にも書いてあります。15条は、事業主は「次に掲げる労働保険料を、その労働保険料の額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書に添えて…納付しなければならない」とし、その額は賃金総額の見込額(厚生労働省令で定める場合は、直前の保険年度に使用したすべての労働者に係る賃金総額)に保険料率を乗じて算定する、と1号が定めています。
ここが大事です。15条(概算)は、申告書に「添えて」納付しろ、と書いている。申告と納付が、ひとつの項の中でセットになっている。
だから多くの人が、確定保険料も同じだろうと思ってしまう。実は、違います。
つまずきの正体:19条1項は「提出」しか命じていない
確定保険料の側を見ます。19条1項は、事業主は「労働保険料の額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書を、次の保険年度の六月一日から四十日以内…に提出しなければならない」と書いています。
読み比べてください。
- 15条(概算):申告書に添えて……納付しなければならない
- 19条1項(確定):申告書を……提出しなければならない
19条1項に、「納付」の字はありません。確定保険料の申告は、金額を届け出るという、それ自体で独立した義務です。お金を多めに納めてあることは、この義務を果たしたことになりません。
では納付はどこにあるか。別の項(3項)です。「納付した労働保険料の額が前二項の労働保険料の額に足りないときはその不足額を…納付しなければならない」。
つまり19条は、「提出」=1項・「納付」=3項と、はっきり分けて書いている。しかも3項の納付義務は、「足りないとき」の話です。
19条を項ごとに開くと、全部見える
| 項 | 何を命じているか | 逐語のカギ |
|---|---|---|
| 1項 | 確定保険料の申告書を提出する義務 | 「申告書を、…提出しなければならない」 |
| 3項 | 不足額があるときの納付義務 | 「足りないときはその不足額を…納付しなければならない」 |
| 4項 | 政府が額を決定して通知(=認定決定) | 「申告書を提出しないとき、又はその申告書の記載に誤りがあると認めるときは、労働保険料の額を決定し、これを事業主に通知する」 |
| 5項 | 通知後、十五日以内に不足額を納付 | 「その通知を受けた日から十五日以内に納付しなければならない」 |
| 6項 | 納付済が確定保険料の額をこえるときは充当・還付 | 「そのこえる額を…充当し、又は還付する」 |
認定決定の引き金は、「過不足」ではない
4項を、条件のところだけ読みます。
「政府は、事業主が第一項又は第二項の申告書を提出しないとき、又はその申告書の記載に誤りがあると認めるときは、労働保険料の額を決定し、これを事業主に通知する」
引き金は、2つだけです。①申告書を提出しない ②記載に誤りがあると認められる。
この条件に、「納めた額が足りないとき」は入っていません。だから、いくら多めに納めていても、申告書を出さなければ4項の条件に当たる。払いすぎかどうかと、認定決定がされるかどうかは、条文の上でそもそも別の話なのです。
「認定決定 か 還付 か」ではなく、「認定決定 → 還付」
もうひとつ多い誤解が、「認定決定されるのか、それとも還付されるのか」という二択の発想です。条文は、二択ではなく順番で書いています。
6項を、括弧の中まで読んでください。
「事業主が納付した労働保険料の額が、第一項又は第二項の労働保険料の額(第四項の規定により政府が労働保険料の額を決定した場合には、その決定した額。以下「確定保険料の額」という。)をこえる場合には、政府は、厚生労働省令で定めるところにより、そのこえる額を次の保険年度の労働保険料若しくは未納の労働保険料その他この法律の規定による徴収金に充当し、又は還付する」
この括弧書きが答えです。6項がいう「確定保険料の額」には、4項で政府が決定した額(=認定決定された額)が含まれている。
つまり条文自身が、こう組み立てています。
- 申告書を出さない → 4項で、政府が額を決定する
- その決定した額も「確定保険料の額」になる → 納めた額がそれをこえるなら、6項で充当・還付
認定決定は、還付の反対語ではありません。還付する額を計算するための前提です。金額が決まらなければ、「いくらこえているか」も決まらない。だから、二択ではなく順番になる。
追徴金は「納付すべき保険料・拠出金の10%」
認定決定というと、追徴金が気になります。茨城労働局は、こう案内しています——「手続きが遅れますと、政府が保険料・拠出金の額を決定し、さらに追徴金(納付すべき保険料・拠出金の10%)を課すことがありますので、十分ご留意ください」。
読みどころは2つです。追徴金の割合は10%で、その基礎は「納付すべき保険料・拠出金」であること。そして「課すことがあります」——必ず課す、とは書かれていないこと。
ひとことで持って帰るなら
「払いすぎているのに、なぜ認定決定?」の答えは、19条の項の分かれ方にあります。
- 提出(1項)と納付(3項)は、別の項に書かれた、別の義務
- 認定決定(4項)の引き金は「申告書を提出しないとき/記載に誤りがあると認めるとき」。過不足は、条件に入っていない
- 「認定決定 か 還付 か」ではなく「認定決定 → 6項で充当・還付」。決定した額が「確定保険料の額」になるから、順番になる
条文を「条」でなく「項」で読む。この一手で、労働保険の謎はだいぶ減ります。