ダブルワークの65歳で覚えるのは3つだけ。数字は「下は5、上は20、足して20」です

2026.04.01 法令基準最終検証 2026.07.1713マルチジョブホルダー高年齢被保険者適用除外高年齢求職者給付金

広告はありません。事実には出典がついていて、その場で原文を確かめられます。

この制度は、条文も省令も全部のせると頭が爆発します。なので、いったん条文の番号を忘れてください。この記事で覚えるのは3つだけです。
まず、田中さん(65歳)に登場してもらいます。田中さんは2つの職場をかけもちしています。
合計、週23時間。しっかり働いています。ところが令和3年まで、田中さんは雇用保険に入れませんでした

なぜ入れなかったのか

理由は、雇用保険法6条にあります。この条文は「次に掲げる者については、この法律は、適用しない」と言い切って、その1号に「一週間の所定労働時間が二十時間未満である者」を並べています
ここで「田中さんは合計23時間だからセーフでは?」と思いますよね。足してもらえないんです。厚生労働省が、従来の姿をこう説明しています。「従来の雇用保険制度は、主たる事業所での労働条件が1週間の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み等の適用要件を満たす場合に適用されます」
見るのは主たる事業所。田中さんはスーパーで15時間、コンビニで8時間。どちらも単独では20時間に届かない。合計すれば23時間なのに、足し算はしてもらえませんでした。
令和4年1月、ここが変わりました。厚生労働省の言い方で、「令和4年1月1日から65歳以上の労働者を対象に「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します
65歳以上の人にかぎって、2つの会社の時間を足して20時間以上になるなら、雇用保険に入れる。田中さんは、15+8=23時間。入れます。

覚えること その1 ── だれが

厚生労働省のQ&Aが、要件を3つに並べてくれています。まず「だれが」から。
大事なのは「別々の会社」です。Q&Aは「なお、雇用保険に加入できるのは2つの事業所までです。また、2つの事業所は異なる事業主であることが必要です」と書いています。同じ会社のA店とB店で10時間ずつ、というのはダメ。事例問題では、店舗名ではなく会社名を見てください。
3つめの「31日以上」は、ふつうに続けて働く契約なら自然に満たします(「2週間だけの短期バイト」だと満たしません)。これはマルチだけの特別ルールではありません。さっきの6条が、2号で「同一の事業主の適用事業に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者」を適用除外にしている——ふつうの雇用保険と同じ条件が、ここでも生きているだけです。

覚えること その2 ── なん時間

数字はここだけです。Q&Aの言い方はこうです。「2つの事業所(1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満であるものに限る。)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
ほどくと、こうなります。
田中さんで確かめます。スーパー15時間(5以上20未満、OK)、コンビニ8時間(5以上20未満、OK)、合計23時間(20以上、OK)。3つとも満たしています。
数字は3つですが、こう並べると覚えられます。
「下は5」について、条文が何をしているかだけ確かめておきます。37条の5第1項3号は、足し算に使える会社を「一週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間数以上であるものに限る」と絞っています週5時間未満の会社は、そもそも数に入れないわけです。
もうひとつ。足し算に使えるのは、2社までです。3社以上で働いている人は、そのうち2社を自分で選びます。「3つ以上の事業所で勤務している場合は、賃金等を考慮の上、マルチ高年齢被保険者として申出をする方が雇用保険に加入する2つの事業所を選択してください」

覚えること その3 ── どうやって入るのか

ここが、この制度のいちばんの特徴です。
ふつう、雇用保険の手続きは会社がやってくれます。これは条文にそう書いてあります。雇用保険法7条——「事業主(…)は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する労働者に関し、…被保険者となつたこと、…その他厚生労働省令で定める事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。届け出るのは事業主で、しかも義務です。
でもこの制度は違います。37条の5は「厚生労働大臣に申し出て、当該申出を行つた日から高年齢被保険者となることができる」と書いていて、申し出るのは本人です
Q&Aは、その理由まで書いています。
通常の雇用保険の加入手続は事業主の義務となっていますが、本制度では、所定労働時間について1つの事業所ですべてを把握してハローワークに届出を行うことは困難であることから、本人を届出主体としております。
A社はB社の労働時間を知らない。合計して20時間を超えたかどうかは、2つの会社をまたいで立っている本人にしか分かりません。だから届出主体が本人になる。理由が、制度の形を決めています。
そして、さかのぼりません
ハローワークへ申出を行った日から、マルチ高年齢被保険者となります(就職日等へ遡及して加入することはできません)。
半年前から要件を満たしていたとしても、「じゃあ半年前から加入」とはならない。申し出た日からです。条文の側も同じで、37条の5は「当該申出を行つた日から高年齢被保険者となることができる」と書いています
知らずに黙っていた期間は、まるごと消えます。だから制度を知っているかどうかが、そのまま結果を分けます。

ここまでで、いったん終わりです

覚えること中身
その1 だれが65歳以上・別々の2社(どちらも31日以上の見込み)
その2 なん時間1社ずつ5時間以上20時間未満・合計20時間以上
その3 どうやって本人が申し出る。申し出た日から
これだけ言えれば、問題はだいぶ解けます。ここで止めても大丈夫です。

余裕があれば、あと2つだけ

まだ余裕がある人だけ、読んでください。
ひとつめ。入るのは自分で決められますが、やめるのは自分では決められません。
「本人が申し出て入る」なら「本人が申し出てやめられる」と思いますよね。やめられません。
雇用保険マルチジョブホルダー制度は、本人の申出により雇用保険が適用されますが、その後の取扱いは通常の雇用保険の被保険者と同様であり、任意脱退は認めていません(通常の雇用保険制度は強制加入方式を採用)。
入ってしまえば、ふつうの被保険者と同じ。入口だけが特別なのです。
なお「何もしなくていい」という意味ではありません。37条の5の2項は、要件を満たさなくなったときは「厚生労働大臣に申し出なければならない」としています。入るときは「できる」、外れるときは「なければならない」。入口は任意、出口は義務です。
ふたつめ。2社のうち片方だけ辞めたときも、高年齢求職者給付金を受けられることがあります。
田中さんがスーパー(15時間)を辞めると、残るのはコンビニの8時間だけ。合計が20時間に届かなくなり、2社で立っていた要件(3号)が崩れます。厚生労働省のQ&Aは、この場合でも給付を受けられるとしています。
1つの事業所のみ離職した場合であっても、離職した事業所の賃金日額を元に基本手当日額を算定し、上記Q20の日数分受給することができます。(例えば、事業所Aと事業所Bの2社でマルチ高年齢被保険者だった方が事業所Aのみを離職した場合、事業所Aで支払われていた賃金のみ(事業所Bは含めない)で給付額が算定されることになります。)
計算に使うのは、辞めたスーパーの賃金だけ。働き続けているコンビニの分は入りません。
そのうえで、ふつうの高年齢求職者給付金と同じ要件は要ります。37条の3は「離職の日以前一年間(…)に、第十四条の規定による被保険者期間が通算して六箇月以上であつたとき」に支給する、としています

ひとことで持って帰るなら

マルチジョブホルダーは、入口だけが特別な制度です。週20時間未満なら適用除外——その扉を、本人の申出で開ける
だから覚えるのは3つ。65歳以上・別々の2社/下は5、上は20、足して20/本人が申し出た日から。あとは、ふつうの雇用保険と同じです。

出典

この記事は 2026.04.01 時点の法令で書いています。法令・通達・判決文は著作権法13条により自由に利用できます。内容は必ず原文もご確認ください。 この記事の note 版は こちら(note版は公開時点のまま更新されません。最新はこのページです)。