模試で後期高齢者医療や船員保険が出て、手が止まったことはありませんか。「こんなの、テキストのどこにあった?」
この分野が「見たことない」に見えるのは、健保との線を条文で引いていないからです。線は、条文のほうがはっきり引いています。しかも引き方が2種類ある——名指しで突き放す線と、名指しで借りる線。ここを分けると、初見の条文でも読めるようになります。
まず、条文どうしが名指しで重複を潰している
いちばん効くのがこれです。「後期高齢者医療って、結局は健康保険の高齢者向けコースでしょ?」——条文はそう作られていません。
健康保険法3条は「被保険者」を定義したうえで、ただし書きでなれない人を並べます。1号が「船員保険の被保険者」、7号が「後期高齢者医療の被保険者(高齢者の医療の確保に関する法律…第五十条の規定による被保険者をいう。)」。
国民健康保険法6条も同じ形です。「次の各号のいずれかに該当する者は、…国民健康保険…の被保険者としない」——1号「健康保険法…の規定による被保険者」、2号「船員保険法…の規定による被保険者」、8号「高齢者の医療の確保に関する法律…の規定による被保険者」。
読み比べると、作りが見えます。健保法も国保法も、相手の法律を名指しして「その人はうちには入れない」と書いている。制度どうしが仲良く重なっているのではなく、条文の側で先に潰してあるわけです。
そして後期高齢者医療に入るのは「後期高齢者医療広域連合の区域内に住所を有する七十五歳以上の者」、それと「区域内に住所を有する六十五歳以上七十五歳未満の者」で広域連合の障害の認定を受けたもの。
ここで3本が噛み合います。後期高齢者医療の被保険者になると、健保法3条7号と国保法6条8号が同時に効いて、健保からも国保からも被保険者としては外れる。「健保の中の高齢者向けコース」ではなく、別の制度——これは条文が2本がかりで書いていることです。
骨組み(運営・入る人・保険料)は、各法で独自
ここは健保の感覚が通じないところです。条文が各法でバラバラに書いています。
条文の書きぶりがそろっていないところが、まず面白い。「保険者」という語を使うのは健保法だけで、国保法と高確法は「行う」と書きます。
| 健康保険 | 国民健康保険 | 後期高齢者医療 | |
|---|---|---|---|
| だれが行うか | 「保険者は、全国健康保険協会及び健康保険組合とする」(日雇特例被保険者の保険を除く) | 「当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険」 | 「後期高齢者医療広域連合が行う後期高齢者医療」。広域連合は市町村が都道府県の区域ごとに設ける |
| だれが入るか | 適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者 | 都道府県の区域内に住所を有する者 | 区域内に住所を有する75歳以上の者ほか |
| だれが入れないか | 船員保険の被保険者、後期高齢者医療の被保険者等ほか | 健保・船員保険・後期高齢者医療の被保険者ほか | — |
国保の入口が「住所を有する者」なのは、地味ですが効きます。健保のように「どこに使われているか」ではなく、住んでいるかどうかで決まる。
保険料も骨組みです。国保法76条1項は「市町村は、…被保険者の属する世帯の世帯主…から保険料を徴収しなければならない。ただし、地方税法の規定により国民健康保険税を課するときは、この限りでない」。
「医療の器」のほうは、健保法が定義したものを借りにくる
突き放す線ばかりではありません。逆向きの線もあります。
健保法63条1項は、療養の給付の中身を列挙します。「一診察二薬剤又は治療材料の支給三処置、手術その他の治療四居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護五病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護」。
そして同じ63条の3項1号が、その医療を届ける器を定義します。「厚生労働大臣の指定を受けた病院若しくは診療所(…以下「保険医療機関」という。)又は薬局(以下「保険薬局」という。)」。
ここで船員保険法を開くと、こうなっています。「保険医療機関(健康保険法第六十三条第三項第一号に規定する保険医療機関をいう。以下同じ。)若しくは保険薬局(同号に規定する保険薬局をいう。以下同じ。)」。
船員保険法は、「保険医療機関」を自前で定義していないのです。健保法63条3項1号を名指しで指している。しかも「以下同じ」——船員保険法の中でこの語が出てきたら、ぜんぶ健保法の定義だ、という宣言です。
これが「健保を軸に」の正体のひとつです。制度は別々でも、医療を届ける器は、健保法が定義したものを他の法律が名指しで借りる。だから健保法63条を押さえておくと、初見の船員保険の条文に出てくる「保険医療機関」も、立ち止まらずに読めます。
借りているのは器であって、手厚さではない
ここが、この記事でいちばん言いたいところです。「じゃあ中身は健保と同じなんだ」と丸ごと思い込むと、逆に失点します。給付の義務づけの強さが、法律で違うからです。
同じ名前の給付で並べてみます。
| 健康保険 | 国民健康保険 | |
|---|---|---|
| 出産育児一時金 | 「支給する」 | 「条例又は規約の定めるところにより…行うものとする」+「特別の理由があるときは、その全部又は一部を行わないことができる」 |
| 傷病手当金 | 「支給する」 | 「条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる」 |
健保法101条は「被保険者が出産したときは、出産育児一時金として、政令で定める金額を支給する」と言い切ります。健保法99条の傷病手当金も、労務に服することができない期間「傷病手当金を支給する」。
国保法58条は語尾が違う。1項は「行うものとする」に「ただし、特別の理由があるときは、その全部又は一部を行わないことができる」がつき、2項は傷病手当金その他について「行うことができる」。
条文の語尾が、そのまま制度の性格になっています。
船員保険には、船の事情がそのまま条文に出てくる
船員保険法2条1項は、「被保険者」を「船員法…第一条に規定する船員…として船舶所有者に使用される者及び疾病任意継続被保険者」と定義します。入口からもう「船舶所有者」です。
独自の給付もあります。行方不明手当金です。
- 「被保険者が職務上の事由により行方不明となったときは、その期間、被扶養者に対し、行方不明手当金を支給する。ただし、行方不明の期間が一月未満であるときは、この限りでない」
- 「行方不明手当金の額は、一日につき、被保険者が行方不明となった当時の標準報酬日額に相当する金額とする」
ひとことで持って帰るなら
初見の条文が出たら、順番に2つだけ。
- 突き放す線か——健保法3条・国保法6条は、相手の法律を名指しして「入れない人」を並べています。ここは各法の個別知識。
- 借りる線か——医療の器(保険医療機関)は健保法63条3項1号が定義し、船員保険法はそれを名指しで借りる。ここは健保法で読める。
そのうえで、借りているのは器であって、手厚さではない。「支給する」か「行うことができる」か——語尾のところだけは、必ず各法を見に行く。